手像の指/服部 剛
れるような
呪文の響きで濡れた路面を這ってゆく言葉
「 よいこらせ〜のさ よいこらせ〜のさ 」
手押し車のとってを握れぬ麻痺の手は
なぜかいつも人差し指だけ前方を指し示し
どしゃ降りの雨に濡れた日も
梅雨明けの広がる青空を目指して
八十二年の道程(みちのり)を歩いて来た
お婆ちゃんの明日への矢印だった
「 よいこらせ〜のさ よいこらせ〜のさ 」
門の両側から出迎える
雨に濡れた紫陽花の花達が
だんだん近づいて来る
お婆ちゃんが視線を上げると
玄関のドアが開いて
「 おかえり 」
と定年過ぎの息子さんが顔
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