手像の指/服部 剛
 
老人ホームの送迎車から
半身麻痺(まひ)で細身の体を
僕に支えられて降りたお婆ちゃんは
動く片手で手押し車のとってを握る

傍らに立つ僕は
宙ぶらりんの麻痺した腕と脇の間に手を入れて
動かない手を握り
傾きかけた体の上にビニール傘をさしている

10メートル先
家の門の両側に咲く
青や紫の紫陽花(あじさい)が
雨に唄って揺れる方へ

「 よいこらせ〜のさ よいこらせ〜のさ 」

細道を ゆっくり ゆっくり 前へと進む 二人三脚

「 あたしゃぁ、声だけなのよ 」

と嘆きながらも
筋金入りの背骨を通って口から放たれる
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