閉鎖区/紫音
 
深呼吸をするたびに
肺の毛細血管が黒く濁る
そんなことはお構いなしに
紫煙の薫りに酔いしれる
ストレッチで身体を伸ばすたびに
関節が軋んで磨り減っていく
こうして心臓の回転は
早くなり遅くなり不整脈
機械仕掛けの人形が
録音再生しながら杓子定規に挨拶し
信号機やエレベーターまで
几帳面に挨拶を繰り返す
決まりきった文句を
時報のように啼いている
意味もわからず
納得もしないまま
子供だ孫だと要求されて
理解されないまま
許容もしないまま
精子と卵子を組み合わせ
出来たものに戸惑いながら
時に憎悪し時に放置する
子供が延長されて
脳は老成して
灰色頭に黒い染みが点々
人形と同じように
ただただ量産していく
それだけで
できあがった頃には
不良品
返品もできない
機械が喋る言葉と
同じ言葉を喋るだけで
笑いながら目が据わってる
この足で歩き
この手で掴み
この目で確かめ
もう一度世界を捕まえられるなら
その後は
型に入れられても
同じことの繰り返しでも
そこには空が見えるはず
戻る   Point(0)