消えた背中/服部 剛
 
い背中が鏡の前に並び
数ヶ月前はあたりまえに並んでいた
ゑみこさんの小さい背中が今は無い

湯船につかる二人は
安らいだ顔をほてらせている

お婆さん達が交わす会話の中に
時折ゑみこさんの名前が出ると
湯船の上に昇る湯気のかたちが
少し崩れる

半開きのドアの向こうの
脱衣所に置かれたラジオから
亡き祖母の想い出が綴(つづ)られた葉書を読む
若い女の声が聞こえる 




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