遮音された距離/紫音
あなたと私の間に
こんなにも近く届かない距離がある
この街で生きていくことは
距離を取ることだ
と
私を見下す太陽は
説教をする
説諭する
どうしようもなく
見渡せないほどの遠くなら
手を伸ばすこともないのに
掌に触れる感触は
コンクリートの壁のように冷たく
立ちはだかる
距離が縮まれば幸せが近づく
そんな幻聴を聞きながら
指の先で絡め取る偽りを愛でて
あなたの横を通り抜ける
手を伸ばせば届く距離は
手を伸ばしても掴めない
この感触
この腐食
空間は浸蝕され
距離は単位を変え
いつしか30センチの向こうにいたあなたが
重力レンズの錯覚のように
どうしようもなく届かないところにいるのだと
脳内科学が告げる
突き刺さる陽射しが
目を抉り
脳を暴露し
二人の距離を目眩まし
向こうに見える高速道路には
走り去る車のエンジン音が響き渡り
すぐそこの横断歩道には
暇を持て余した高校生がくだらない音を撒き散らし
その全てが聞こえても
通り過ぎる空間には
あなたの声はない
私の声は響かない
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