線路の枕木に伝う音/服部 剛
 
ビ瞬間=とき}を待っている

君を呼ぶ 満月の白い光の引力は
倒れていた身を ゆっくりと起こすだろう

緩んでいた拳を握り締め 立ち上がる
傷痕の残る裸足を 宙にかける
磨いだ獣の爪を光らせる指で 掴(つか)んだ場所に
透明の梯子は現れる 

濁った牙を口から出して不敵な笑みで浮かぶ
無数の顔が舞っている頭上を突き抜けた場所に
錆びかけた線路は光を帯びて
銀河の流れに浮かぶ駅と駅をつないで
未来の彼方へと伸びてゆく

駅に佇(たたず)む人々の胸には小さい暖炉があり
あたたかいハートの紅い炎が揺れている 

あの頃 君が走り抜けていた線路の
遥か遠い過去の始発駅から走り出す
流星に包まれた列車の音が聞こえて来て
梯子を上る君の頭上の枕木を微(かす)かに震わせている

闇から吹きつける風に
撓(しな)りながらも倒れない透明の梯子
一段ずつ 握り締めて 踏みしめて・・・

あの光を帯びた頭上の線路に
まっすぐ伸ばした
手の届くところまで・・・ 




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