時の無い都市/服部 剛
 
髪まじりの娼婦に
ある者は手首に傷痕の残る少女に
姿を変え
その誰もが
肩に当てた聴診器の手のひらに
遠い鼓動を伝え
皮膚の下には暖かい血を流していた

勇敢な戦士ではない私は
これからも通り過ぎてゆくだろう
時折吹くビル風に運ばれる
小さい声を
受け取る手のひらから零(こぼ)しながら

横たわる人々の傍らにしゃがみ
肩に手を当て共に身を起こす
あの「幻の人」を置き去りにして

時の無い世界のアスファルトに横たわる
幾人もの人影が
ビルの谷間に昇る朝日の引力に
ゆっくりと身を起こしてゆく様に
震えを覚えながら


* 初出 詩学 ’05 6月号 投稿欄(一次予選通過作品)



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