Cafe Le Poete/服部 剛
たセーヌ川の畔(ほとり)で
ホームレス達は楽しげに酒盛りをしており
独り身の旅人は笑い声に吸い込まれ
地べたに腰を下ろし盃を交わした
少し濁ったグラスにワインをそそいでくれた初老の男は
皺(しわ)を刻んだ頬を緩(ゆる)めて
「若いの、今日という日を楽しもうや・・・」
と言ってグラスを重ねた
〜
マスターの旅の話が終わり
「おやすみなさい」
と言って店のドアを開いた後
少し歩いて振り返ると
ドアのガラスの向こう側で
今日最後の客がいなくなり
がらんとしたセピア色の空間の
カウンターに凭れたマスターは
手にした古いワインのラベルを
懐かしそうに眺めていた
「Cafe Le Poete」
日々の仕事にくたびれて
とぼとぼ歩いて帰って来ると
夜道の向こうにはいつも
ドアの上から辺りをほのかに照らすランプ
消えることない 夢の灯火(ともしび)
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