心ノ種/服部 剛
あてもなくふらつく夜の地下道
家の無い汚れた列が うようよと 笑ってる
バケツに入った配給の雑炊(ぞうすい)を待ちわびて
地上への階段を登る
雨に濡れた新宿ミロードの傾斜を
危ういハイヒールの靴音で
長い黒髪は雨をかき分けてゆく
僕が差し出そうとする手に傘は無く
鼠(ねずみ)色のフードは自分の頭を覆うに過ぎず・・・
しばらく歩いてバスに乗る
後部座席で眠気に誘われ
瞼は窓に流れる世に幕を下ろし
意識は奇怪な夢の海に潜りこんでゆく
燃える街の何処(どこ)かでは今夜も
しゃれこうべの透ける二人の肉体は
愛もなくよじれあい ・・・
・・・僕の肩を軽くたたく 見知らぬおばさんの声
「お兄さん、終点だよ。」
バスを降り
雑踏に消えゆくおばさんの丸い背中
なにか 小さいものが ふくらんでゆく
ビルの谷間の底から
降り続く雨と霧の 四角い空へ
* 初出 詩のメールマガジン「さがな。」80号
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