空耳/紫音
 
いつか聞いたはずの歌声
有刺鉄線が横切る飛行機雲
陽だまりの滑走路
髪を掻き乱す風の音色

思い出せないあの日
覚えてさえいない夕暮れ
微かに漂う暖かい幻
沈みゆく朱の行方

地平線を越えて
空の向こうへ
水平線を抜けて
地の彼方へ

ひとしずくの重さが
ボクを変容させて
リトマス試験紙が
滲みながら破れていく

網膜のバグ
鼓膜のエラー
脳髄のミスキャスト

ほんとうは
最初から其処には
何もなかった
何も

いつか聞いたはずの歌声


感じていたはずの


 夢の
  音色

 七色の
  心の旋律


胸に空いた穴を
音も無くすり抜ける風が
腕に刻まれた傷を
冷たく愛撫する
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