月曜日の幽霊/岡部淳太郎
 
戸は本当に海とつながっているのだろうか
それら多くの疑問を問う暇もなく
そんな暇を自らに与えることを禁じて 女は
奇妙な形で復活した夜毎の逢瀬を なおもつづけた
人々は口々に噂をした
――「月」の光にやられたに違いない
だが女は孤塁に立ち
永遠のような反復の中で 揺れていた

#5

ある夜
それは「月」の夜であろうか
その 魔術の夜であろうか
いつものように女が男への手紙を井戸に落とし
背中を向けて立ち去った時
井戸の中から誰かのつぶやく声が聴こえた
それはたったいま手紙を投げた女の声のようにも聴こえ
海底で眠っている男の声のようにも聴こえた
女はその声を聴
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