傾いた背中の青年/服部 剛
朝の駅の構内で
改札の向こうからホームの階段を上る
黒い制服の青年が障害を背負う体を傾けて
こちらに向かって歩いて来る
眼鏡の奥の瞳には
いつも光を宿らせて
不器用な歩幅を
一歩 また 一歩 と前へ進めてゆく
今朝の重荷にうつむいて
床に落ちたちぎれた切符や
つぶれた煙草ばかりが視界に入る
改札口を横切り
出口の階段へと向かいながら
彼の瞳の光を思うと
「何をうつむいているのか」と
小さい嘆きを胸に呟(つぶや)く
振り返ると
「あ」っという間に
遠い人ごみに消えてゆく
傾いた彼の黒く滲(にじ)んだ背中
向き直り 顔を
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