『風の祈り ― 鬼吉と澄乃』 第五章:旋律の継承/板谷みきょう
 
老いた澄乃は、子どもたちに語った。

「もうすぐ、あの人が来るよ。
寒さに耐えたことを、
真っ先に褒めてくれる人が」

その名は決して明かさず、
物語だけが民話として村の記憶に根を張る。

鬼とは、角の生えた異形ではない。

誰かを怖いと思い、
背を向ける心の中に生まれる
孤独の影。

向き合えば、鬼は消える
……春の風のように。

澄乃が息を引き取った夜、
村には優しく湿った風が吹いた。

踏み消された足跡も、
言えなかった言葉も、
すべては風の旋律となり、
誰の耳にも届かぬまま、
永遠に山里を吹き抜けていった。
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