『風の祈り ― 鬼吉と澄乃』 第二章:丘の祈り/板谷みきょう
澄乃は毎日、丘へ通った。
そこは誰の目も届かぬ、風の通り道だ。
風が吹くたび、
柔らかな草は一斉に倒れ、
また静かに起き上がる。
その繰り返しの中で、
胸の奥に燻っていた想いが、
ようやく口を突いた。
「花いちもんめ、勝ってうれしい……」
声は風に千切られ、空へ消えた。
歌い終えてしまえば、
あの日の絶交が完成してしまう気がして、
澄乃は途中でいつも息を詰める。
梢の小鳥たちが、「キチ、キチ……」と鳴いた。
まるで、かつての友の名を呼ぶかのようで、澄乃は息を止める。
涙は乾いた土に吸われ、
祈りは残響となって空に溶けていく。
それでも、澄乃は思った。
この歌がいつか風に乗り、結界の向こうに届くだろう、と。
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