春一番になった鬼/板谷みきょう
初は、みんな「気の毒にな」と囁き合っていた。
だが、誰かが言った。「ありゃあ、鬼だ。人じゃねえ」
その一言で、村の空気が変わった。
道で吉とすれ違うとき、大人は口をつぐみ、俯いて、
薄気味悪そうに横目でチロ、チロと見るようになった。
昨日まで一緒にいた子どもらも、遠くから泥を投げる。
吉は、自分の額を隠そうともせず、無理に笑おうとした。
だが、奥歯を噛み締めすぎて、あごの骨が白く震えていたんだ。
第二章 垣根の晩
ある雨の晩だ。澄乃は、雨音に紛れて垣根の前に立った。
闇の中に、吉の気配がした。
泥のはねる音が止まり、吉がそこに立った。
吉は、信じていたんだ。澄乃だけ
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