『三郎沼の守り火』 第四章:谷の声/板谷みきょう
三郎が岩場に膝を折ると、
重い声が滝飛沫に混じって降ってきた。
「命を差し出す覚悟はあるか。
その命は、もはや
元の場所へは決して還らぬぞ。」
龍神の声が止むと、
滝の音だけが一層激しくなり、
三郎との約束は
水の奥底へと沈められた。
三郎は自分を消すことで、
村の明日を買い取った。
それは救済と呼ばれたが、
実態は自らの存在を
この世から削り取る残酷な契約だった。
飛沫に打たれる三郎の姿は、
やがて水の色に溶け、
誰の記憶にも残らない。
飛沫の一部へと変わっていった。
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