『三郎沼の守り火』  第一章:泥に沈む集落/板谷みきょう
 
「家も、三郎沼も、すべて水の底に沈むんだべのぅ。」
爺さまの呟きは、囲炉裏の爆ぜる音に吸い込まれた。

夜ごと水音を変えるぬらくら川の不機嫌を測りながら、
村人たちは息を潜めて暮らしていた。

貧しさは土の奥深くに染みついた古い影のように村を支配し、
ダム建設の噂が現実味を帯びていく。

千の命を救うために、百の命を沈める。

その非情な線の引き方の下には、
何世代にもわたる生活の重みが
泥のように絡まり合っていた。

河童の三郎は、冷たい水面を通して
その予感を全身で受け止め、静かに沈殿していた。
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