谷間にとじる鼓動の傘をおいかけて  ―なくしたものと出会える町で―/菊西 夕座
 
る。
「いいえ、ミスター、あなたはミスをしたの。最愛のひとをおきざりにして」
老婆は笑いながら背をむけて、それでも背中ごしに手招いて屋敷へきえた。

失礼ながらピコット夫人(これが老婆の名前で、屋敷はピコット屋敷といった)、
ところが玄関口に老婆はおらず、かわりに大きな猫のジェントルマンがいた。
ドーベルマンのようだと本で読んで知っていたが、たしかにりりしい猫であった。
子どもだましとわかっていても、感涙はもう受けとったとその瞳はいっていた。

というのも私はこの町を本で読んで知っていたし、ひとつだけの通りはいつも濡れていた。
本屋がさがしていたページは、船具店が飼っているオウ
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