ショウヘイ/後期
、ちゃんと回る」
今村は、そこで言葉を切る。
そして、ゆっくり吐き捨てるように続ける。
「俺が撮りたい観客はな、席を立てないやつだ」
沈黙が、重く落ちる。
「終わっても、ズボンに泥が付いたまま、何かが喉に引っかかったまま、家に帰っても、飯がうまくない」
それは映画の敗北ではない。今村にとっては、成功だ。
「観客まで含めて、人間なんだよ。きれいに観て、
きれいに帰れると思うな」
誰も口を挟めない。
黒澤の影も。
場は、完全に濁った。
だがその濁りは、スクリーンの外へ、確実にはみ出している。今村は最後に、ぽつりと付け加える。
「だから危ないんだ。
黒澤さんは。
あんなに美しくて、
あんなに強い映画を、
観客に渡しちまうからさ」
それは告発であり、
同時に、どうしようもない羨望だった。
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