ショウヘイ/後期
なる頃、今村昌平はようやく満足そうに、ほんの少しだけ頷いた。その頷きが出たということは、その生活が、十分に人間であったということなのだろう。私は、そう思うことにした。
今村は、濁った水たまりを覗き込むような目つきで、「人間の業」を語り始めた。
「思想じゃない。信念でもない。腹の底で腐って、発酵して、知らん顔して噴き出すもんだ」
言葉は粘つき、空気に溶けず、場に沈殿していく。足元に溜まっていた濁りが、じわじわとかき混ぜられる。整理されるはずだった風景は、説明不能な臭気を帯び始める。「人間は、善悪の前に、まず生き汚い」
今村はそう言って、指で地面をなぞる。
そこには理論も構図もない。ただ
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