ショウヘイ/後期
かじゃない」
今村は最後に、ぽつりと言う。
「ただ、俺は泥の方が、人間の匂いがすると思ってるだけだ」場はまた少し濁る。しかしその濁りは、否定ではなく、どうしようもない共存の証のように、静かに広がっていった。
今村昌平は、黒澤の映画そのものから、ふいに視線を外した。画面ではない。作り手でもない。椅子に座って、それを見ている「人間」の方へ、ぬるりと向き直る。
「でさ……問題はな、観客なんだよ」
声が、少しだけ低くなる。場の温度が一段、下がる。
「黒澤映画を観た観客は、あれを観て、気持ちよくなるんだ。泣いて、震えて、
“ああ、人間っていいな”って思って帰る」
今村は、そこではじめて、はっ
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