すすき野原の物語(はかりしれない郷愁)/板谷みきょう
が、いなかったと断定するには、この風が、あまりにも……私に近すぎる。」
民族学者はその夜、書き上げた論文をすべて引き裂きました。
学問とは、世界の輪郭を固定し、意味を与える「名付け」の作業です。
それはかつて村長たちが祠に釘を打った行為と同じであると、彼は悟ったのです。
学者は村を去りました。
彼のカバンの中には、調査報告書の代わりに、野原の隅で見つけた一枚のクヌギの葉だけが大切にしまわれていました。
彼は生涯、その調査結果を発表することはありませんでした。
ただ、晩年の彼が遺した日記の最後には、
震える文字でこう記されていました。
[学問は、扱えないものを切り落とすことで前へ進む。
だが、切り落とされた欠片こそが、私が子どもの頃に愛し、
そして失くした『私自身』であったのだ。]
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