味噌汁/乾 加津也
晩ご飯の
赤だし
わたしのための 味噌汁のそばで
箸置きのうえに乗った
ふるくてもあたらしいことばが
動きます
土くれの わたしの
たしかな指で
やさしく包み覆うようにしても
ことばは
誰のものでもない と
わたしの指に少し触れただけで
かるく揶揄うように
くらい 窓の外の
たぶん永遠と思われる
かすかな光をめがけて
あなたの帰るその場所に
わたしも連れて行ってくれたらと
温かな味噌汁を
一口
舌の上でも確かめながら
あなたの顔を覗きこみました
あなたとは
三十三年がたちましたね
わたしたちにも
それぞれの老いが
談笑の端々にも
挟まり始めてきましたね
お椀の味噌汁に閉ざされた
蠢く にごり
なめらかな舌触りさえ
いまだに ことばに
なれずにいます
戻る 編 削 Point(7)