The Wasteless Land./田中宏輔2
 
ナルに直結した地下鉄の駅で降りると
夏が水の入ったバケツをぶちまけた。
ぼくたちは、待合室で雨宿りしながら
自動販売機(ヴエンデイング・マシーン)で缶コーヒーを買って
一時間ほど話をした。
「わたくし、あなたが思っていらっしゃるような女じゃありませんのよ。
こんなこと、ほんとうに、はじめてですのよ。」
どことなく似ていらっしゃいますわ、お父さまに。
幼いころに亡くなったのですけれど、よく憶えておりますのよ。
いつ、書斎に入っても、いつ、お仕事の邪魔をしても
スミュルナ、スミュルナ、わたしの可愛い娘よ
と、おっしゃって、膝の上に抱いて、接吻してくださったわ。
聖書には、
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