小さなメモふたつ/由比良 倖
かりを眼の裏に溜めて、プラスチック越しの世界を、みんな笑うつもりで見ています。身体が皮膚から溶けて、肉が骨から離れていって、溶けて溶けて、私との境目が無い世界を一度は見たい。そして何ものにも、まなざしによって境界を付けない世界を。
母が一階で味噌汁を煮る生活の匂いがします。救命装置が欲しいです。ドアの前に浮き輪があって、ドアの外には海があって、深海へと下りて行けたら。カーテンから陽が漏れてきて、顔の左側だけ火照ってきて、そんなことからも私が煩わしい存在であり、非在ではないことを思います。けれど来年には死ねるでしょうか、とかもう抱負を考えて、……って、まあ暗いですね。夕焼けを食べたいような気分です。
書けない時間が、砂っぽい匂いとなって、心に染み付いていきます。優しさのリミットが外れて、今日は人が好きで、好きで、人に憎まれたいほどです。
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