すすき野原で見た狐(中巻)/板谷みきょう
 
らなぁー!」

第五章:決意と無言の別れ
次の日、与一は暗いうちから起き出し、遠出の支度を整えた。社には簡潔な貼り紙だけを残す。

『村ノ皆サマ、シバラク留守シマス。二、三日デ帰リマス。』

狐は背を向け、無言の別れを胸に刻む。遠く断崖へ向かう与一の旅は危険に満ちている。それでも、二人の心の絆は静かに、確かに育まれていた。

狐は月明かりの下で小さく息をつき、心の中で呟いた。

「与一どん……みっともない姿なのに……それでも……見てござったのか……。……ありがたいのう……ならば……わしは……」

すすき野原を渡る風だけが、二つの孤独のあいだをそっと結んでいた。


原作「すすき野原で見た狐」を修正しました
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