道化人形(修正版)/板谷みきょう
 
箪笥の上に置き去りにされた道化人形は、誰にも気づかれぬまま、長い時をひとりで過ごしていました。

笑ったままの顔は色あせ、細いひびが頬を走り、衣装の金の刺繍は煤けています。
かつてこの笑みを愛した人の名も、もう誰の記憶にも残っていません。
夜、部屋の静けさが満ちるころ、人形は窓の外に昇る月を見つめました。
淡い光は、ひび割れた頬に触れ、冷たく固くなった胸をそっとあたためました。
月光は、胸の奥に小さな期待を描き、ひとときの慰めを届けます。

昼間、人形に近づくのは、小さな生きものばかり。
蠅は鏡台にとまり、油虫は影のように這い回り、鳥たちは窓枠でおしゃべりに夢中です。
だれも人
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