鬼吉と春一番(修正版)/板谷みきょう
消えて、澄乃の家の垣根をゆらりと揺らしたのは、
春一番の、ちから強い風だった。
ばっちゃは思う。鬼の姿で戻れば、澄乃も村も傷つく。
だから吉は、「鬼」を脱ぎ捨て、「風」になったんだって。
「おら、澄乃ば、助けてんだ。村ば恨んじゃなんねぇし。おらは、澄乃と村の…」
――それは、吉の魂の叫びだったけんど。
言葉の最後は、冷てぇ風に?き消されて、
澄乃の家の垣根を揺らしたのは、春の訪れを告げた風。
よう頑張ったのぉー。よう耐えたのぉー。
春だじゃ、春だじゃ。
これから、春が来るどぉーってのぉ
さっ。寝てまぇ。吉は、風となったんだべ。毎年、毎年、必ず、春を知らせに来る
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