紫陽花と秋桜の話(修正版)/板谷みきょう
 
いう名前だよ。」

紫陽花は、その声が、雨粒の奥に、すうっと落ちていくような、切ない気持ちになりました。

「あの花を、一度でいいから見てみたい。」

その想いは、きらきらの光の糸になって、紫陽花の心の、誰も知らない深い場所にきゅっと結びつきました。

けれど、風は去り去り際に、ひとつだけ、冷たくて、哀しい真実を置いていきました。

「でも、あの秋桜が咲くのは、君がもう、この色を失くしている、ずっと遠くの季節なんだよ。」

紫陽花は、その寂しい言葉を、すぐには理解できませんでした。

ただ、胸の奥に、細い影がさすのを感じるだけでした。

その夏、空は沢山の涙をこぼし
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