業ヶ淵の鬼の話/板谷みきょう
う)も消えると思ったのだ。
戦での与一は荒れ狂い、「あばれ与一」と呼ばれた。
ついには鬼をも断つといわれる黒い大太刀、**鬼哭丸(きこくまる)**を授かった。
振ればヒュゥと泣く、不気味な太刀だった。
だが錦を着ても、うまい物を喰っても、夜になると隙間風のような声が胸をつらぬいた。
淵の声が、母の影を呼び起こすのだ。
四 帰る影
八年が過ぎたころ、噂が届いた。
「業ヶ淵の鬼が、夜な夜な里へ下りてくる」
与一の顔は雪のように青ざめた。
(あれは俺の影じゃ。俺が始末をつけねばならん)
都を出る前、老僧が与一に言った。
「武士どの、その
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)