業ヶ淵の鬼の話/板谷みきょう
 

 その囁きは、氷柱(つらら)のように与一の胸に折れた。
 翌朝、与一はおっかあを背負って山に入った。

 背中は枯れススキのように軽く、息をしているかさえ分からなかった。
 業ヶ淵に降ろしたとき、おっかあはふり返り、薄雪のように儚い笑顔を見せた。
三 鬼哭丸(きこくまる)の音
 その夜、淵の底から、

 「ギャァァ……ギャァァ……」

 と、肉を裂くような声が響いた。
 与一は布団をかぶって震えた。

 (あれは鬼じゃ。俺がおっかあを捨てたから生まれた鬼じゃ)
 罪の影は与一を追い立て、ついに村を逃げ出した。

 都へ行き、名を立て、強くなれば、この業(ごう)
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