豆花/そらの珊瑚
ことはないけれど
もうこれは美味しい予感しかない
席に戻って娘も食べたいというので
添えられていた木のスプーンで
彼女の口にプリンを運ぶ
「美味しい!」
娘とは食の好みが合う
というか
自然と親子だから似るのだろうか
それが祝福なのか呪いなのかは知らないけれど
娘の口になんどもスプーンを運ぶ
幼い頃にしたかのように
もういいよ、と彼女は少し苦笑いした
さらりとした優しい甘さ
シロップを飲み干しても
口の中に甘さは残らず
滋養だけが残る
そんなような味
夕暮れは
気づいてしまうと足早に暮れてしまう
さりとて
気づかないふりもできず
それはいつだってそうだったけれど
ふりむけば立ち見の客も増えて
小さな月はのぼり
アンサリーの澄んだ歌声
この夜のすみずみまでもを満たして
思い出は上書きされる
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