豆花/そらの珊瑚
 
ことはないけれど
もうこれは美味しい予感しかない

席に戻って娘も食べたいというので
添えられていた木のスプーンで
彼女の口にプリンを運ぶ
「美味しい!」
娘とは食の好みが合う
というか
自然と親子だから似るのだろうか
それが祝福なのか呪いなのかは知らないけれど

娘の口になんどもスプーンを運ぶ
幼い頃にしたかのように

もういいよ、と彼女は少し苦笑いした

さらりとした優しい甘さ
シロップを飲み干しても
口の中に甘さは残らず
滋養だけが残る
そんなような味

夕暮れは
気づいてしまうと足早に暮れてしまう
さりとて
気づかないふりもできず
それはいつだってそうだったけれど
ふりむけば立ち見の客も増えて
小さな月はのぼり
アンサリーの澄んだ歌声
この夜のすみずみまでもを満たして
思い出は上書きされる

戻る   Point(9)