×零の幸福/ただのみきや
「○○をめぐんでくれないか
うす目をあけた明日が見つめている
月の向こうからじっと
沈黙は花 だがあれには歌がない
臨終の瞳を覗くようで
どれほど愛おしんでみても(仮に)
概念だけが腐った果肉の中から
白く ぬれているのかいないのか
陶器のような 普遍不動の所作
未来が死者の眼差しで見つめている
ひとつの病のようで
ひとつの詩のようで
だがなにもかもが昨日丸めた紙屑の中だ
あれは恋文だった
一匹の蜂の美しい死骸だった
なにかが白くもつれたまま
こどもの耳もとで剃刀色の雨が降っている
あれは母のセーターの匂い
×零の手前
世界は色彩に溺れ
だんだ
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