裸の枝に実る柿/菊西 夕座
 
気配」を漂わせ
柿の木の背後から宵闇が恋人たちの高層階にまで忍び込む
「ランプを灯せば街は沈み 窓には部屋が写る」ように
「わたしが今死んで」暗くしても部屋の「輝きはもどらない」

死に瀕するような痩せた枝の先から別れが熟して朝を迎える
色あせながらも変わらない窓に干し柿がカーテンをかけている
あの窓の奥にこそ真新しい時代にはない閉じられた青春がある
「わたしが今死んで」暗くしても輝きにつながれる部屋がある

振り向くと柿の皮をむくあなたが椅子に腰掛けてほほえんでいる
皮がむけるたび皿へと増えていく裸の果実がかつての二人ならば
もはや裸で抱き合うことがなくても頬張って通じ合えるから
生きた思い出の甘みもあれば残る幻の渋みも豊かな人生だから

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