首都高/guest
鼻歌でも歌ってやりたい気分でいる、私が
父は何も言わなかったという
いつものように目玉を光らせて
黙ったきり窓の外を眺めていたという
そこに母の姿を探してでもいるようだったと
兄は気丈な人だから
涙ひとつ溢さないのだろうが
それは悲しんでいないということではなかった
電話口の圧し殺した声が震えている
美しい背中しか思い出せない
どんな笑顔だったか
どんなため息をついたか思い出せない
その場にいたみんながその手で父を殺すことに怯えていた
母を殺した男に復讐を企む自分に怯えていた
母は言った
ありがとう、お帰りなさい、気を付けて行ってきてね
母は何も悪くない
悪くないんだ
大丈夫
私は鼻歌と共に父を殺す、何の躊躇いもない自分を想像しながら
いつものように
心の中で母にそう言い聞かせ続けていた
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