助走/たもつ
 
の日に教えてくれた
自分もそうだから
真由美さんは俯きながら付け加えた
店長さんが隅っこの方から
少しずつお店の拡張をしている
わたしはお手伝いをするために助走する
両腕を思いっきり振りながら
真由美さんの孤独を思う

店長さんが空を指差している
冷たい金属に触れて冷えた指先
その青さの突端に小さなものがあった
あれが春だよ
店長さんが言う
天日干しされた靴の爪先から
ゆっくりと解けていく春
その匂いを嗅ぐと毎年のこと
もう春なのだ


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