冬の街にて/由比良 倖
 
のだ。
「お水はいかが?」と彼女は言う。
私は、「カーテンが…」と口にする。
彼女は「ああ、ああ」と言う。
彼女が手を翳して、「えいっ」と言うと、
カーテンが燃え始める。


雪。
雪は好きだ。可愛い服みたいで。
家が無くて悲しい。
今生きている人間の中の、抽象的な痛みに触れたい。
表面の、ほんの奥の、もしかしたら永遠に奥の、苺のような、痛み。

……
真っ赤な傘を、かかげて歩く、
空の吐息、虫の羽のように青い、
私の視覚風景は金色に切ない、
「ねえ、空は私小説ではありませんか?」
歩けば繰り出してくる白紙の頁、

湯気の立つ排水溝にも、夕陽のオレンジはこぼれている、
全ては涙の色に、生きて、息づいている……
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