風はまだ冷たくない/山人
十五メートルほどのブナ林の中で私は休んでいた
ドカベンをかなり残し昼食を終えた
指定ごみ袋を枯葉の上に敷き腰を下ろしている
風はまだ冷たくなく、肌着の汗は乾き始めている
まだ紅葉にならないブナの葉だが
幾分緑の月日に飽きてきたみたいで
風によってかさかさと揺れている
それぞれのブナはたがいに触れ合うこともなく
その林立した空間にそれぞれが生きている
太陽の光が入らないブナは細く一方は太く
その生きざまは私たちのようで
さながら私は曲がった光を受容できない細ブナなのであろう
そんなブナは生きようと気張るでもなく
ただ任せている
たとえば隣の大木が何かの異変で倒れてしまったとき
細ブナの運命は変わるかもしれない
だからそのときのために生き続けている
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