忍野/月乃 猫
 
しんだ
だから 食ったんだよ
泉の黄金色の山女魚を、
それは 尽きることのない命をくれる
泉のその主を わしは食ったのさ
だからこの命は、いつまでも続くのさ

煙ぶる炎の揺らめき 老婆の
たわごと、
疲れの ねむりの頭で男は、
襤褸をまとった 小さな影をみつめた

老婆は、泉の 深い 底の色をした目で、
男を刺すようにみつめ 
ゆっくりと 顔をおおう手ぬぐいを取り去った
そこには、
見たこともない 鱗の魚の顔が、
水のつめたさの眼差しで
男を見つめていた

恐ろしさに 小屋を飛び出した男は、
森のどこをどう歩いたのか、
夜明けまで、さまよい続け
朝焼けの中に やっと 人里らしきものを
見つけた そこで・・・



つづく


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