忍野/月乃 猫
今は昔の
語り継がれる泉の物語
朧な月光
旅人が、人里はなれた峠に迷い
闇は足元からしのびよる
憐憫の月明にしがみつき、藁ぶきの小屋にたどりつく
薄暗がりに
老婆が朽ち果てた戸をあけた
顔を手ぬぐいで覆ったその姿に
息をのみ、
「「 助かった、悪いが一晩泊めてくれ
灯りは、ぬくもりの眠りを誘い
小枝を跳ねる囲炉裏の火の向こう、
いつの間にか、老婆の呟きがとって変わった、
「「 ・・・あの年は、苦しみ 悲しく
消えることがなく ただ、それに慣れようとした
ふたたび 今生を繰り返す 暮らしを望んだ
それが ため
不死の身が欲しかった
命を 惜しん
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