悴んだ/森 真察人
 
女と送ったことがないのだ

僕は傷ひとつない牛や羊を
丁寧に屠り 月の下で焼いた
暖を取るためでない
少女の分まであがなうためだ
それにこの悴みが単に
らい病であることには気がついていた

月を抱くようにゆっくりと
倒れゆく少女の白い髪に
煙は届き
やがて大粒の水滴が
降ってきて
この牛や羊の燔祭(はんさい)の炎を消した
煙が少女の眼に染みて
巨きな泪(なみだ)を流させたのに違いなかった



僕は場所をすこし変えて
また牛や羊を焼きはじめる
そうしてまた巨きな泪によって
燔祭が鎮火される度に
僕は場所を変え牛や羊を焼くのだった
この僕の全身が
白く朽ち果てるまで……

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