人妻温泉旅館/atsuchan69
いる。私は肩まで浸かり、深いため息をついた。まるで小さな温泉旅館のようだと心の中でつぶやいた。
食卓には、イガミの煮付けと、七海が握った不格好なおにぎりが並んでいた。私はそれを頬張りながら、胸の奥が熱くなるのを覚えた。血のつながりはなくとも、ここには確かに家族の温もりがあった。
別れ
年の瀬が近づき、入り江は冬の灰色に沈んでいた。海は低く、波の音だけが響く。私は車を港に停め、竿と道具箱を担いで浜を歩いた。釣果はわずかで、空の冷たさが身に沁みる。
家に戻ると、遥は表情を硬くしていた。七海は炬燵で絵本をめくり、ちらりと私を見るだけだった。
「町から人が来て……昔の噂を確か
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