人妻温泉旅館/atsuchan69
 
 入り江にて

 大阪から車を走らせ、片道三時間。途中のサービスエリアでスマホを確認すると、通知に追われる日常がそこにあった。
 やがて夜が明け、寂れた港町を抜けると、道は雑木林と露出した山肌に挟まれるように狭まってゆく。舗装はところどころ剥がれ、冬の潮風に洗われたガードレールは白く錆びていた。私は車を港の空き地に停め、竿とクーラーボックスを担いでしばらく歩く。海の匂いが胸を満たし、都会での息苦しさが少しずつ遠ざかってゆく。
 目指すのは、小さな入り江だった。防波堤もなく、岩場がそのまま海に落ち込んでいる。ここでは四季を通じて魚影が濃い。春はメバル、夏はアジ、秋にはカワハギ、冬はグレやイガ
[次のページ]
戻る   Point(11)