それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
庫作業だ。ぼくはパレットを降ろし、ハンドリフトに通した。やがて主任が伝票を持ってきて、机にひろげる。そして割り振りをした。主任のぶん、壮年のぶん、ぼくのぶん、かの女のぶんだ。それぞれリフトを引きながら、ピッキングをはじめた。もうここへ来てひと月半にもなるのに、商品の場所はまったくのでたらめで、伝票の棚番通りにはまったくいきはしない。困ったときは年増女に訊く。それでもないときがある。いつも商品が完全に揃うまでに定時を過ぎ、残業がはじまる。ぼくは昼餉に大盛りのスパゲッティを平らげ、ビールを呑んで職場にもどった。そして休憩室で本をひらき、かの女の声を聞く。聞き耳を立てるのだ。
高校卒業してキャデ
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