こころのかける  涙の一滴(ひとしずく)/洗貝新
 
できたのは母親の葬式だった。
法話に立つ僧侶をまえにして
私のすすり泣く嗚咽は留まることがなかった。
皆が呆れるほどに
止むことはなかった。
啀みあいもつれ合ったままの関係に
何よりも互いに伝えきれなかったという
虚しさと自蔑の念から
私は感情を抑えきれなかったのだ。

肉体から溢れ出る涙はこころの汗だという
ならば精神から滲み出る涙は何と表せばよいのか
それは、零れおちる、こころのかけら(一滴)ではないのだろうか。



 

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