I FEEL FOR YOU。/田中宏輔
 
格好になったんだけど、なかのひとり


  〇


逞しい体格のカッコイイ青年が、突然、笑顔で、「握手しましょう」と言ってきて、彼が差し出した右手を握ったら、彼もギュッと握り返してきて、そのあと「また」と言って手を振るので、ぼくも手を振って立ち去った。不思議な経験をした。知らない男の子だった。なんかうれしかった。


  〇


ぼくは、自分がとてもブサイクで、いやな性格で、ひとに好かれるタイプの明るい人間じゃないと、ふだんから思ってるから、居酒屋さんでも、道端でも、こんな経験をすると、とてもうれしい。よい詩に出合ったときの喜びに近いかな。いや、この出来事は詩だ。詩なのだ
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