晩夏/リリー
 
 今宵手にとる梅酒のロック
 漬け込んだ梅の実も
 取り出してそのまま齧れば
 甘酸っぱさの酔いが
 心のうらがわまでしみてくる
 
 溟い憩いにグラスを傾ける
 私の手は苦い
 梅の実に歯を立てて
 あおい生きものを喰むと
 或いは人なのだろうか
 舌で愛するやすらぎがよみがえる

 エアコンの風で揺れる
 部屋干しの下着に見え隠れして
 微笑する夏の末の熱い昼間
 何かしら疲れが
 しんと澄んだ夜に眠気をさそい

 白い小皿に絵の様なひとつの
 梅の実の種
 この欲情のほろ甘さも絶え
 肩先へそっと触れて来る
 もうあなたではない
 秋の気配に孤り寝床で包まれる

 
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