LIVING IN THE MATERIAL WORLD。/田中宏輔
るように、岩壁に描かれた絵を見て、その絵の描かれた場面に遭遇しなかった原始人たちもまた、その絵が描かれた時間や場所や出来事のなかでふたたび生きただろう。
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この詩人は、自分の作品のなかでは、なに一つ、ほんとうのことを書いていなかった。いや、ほんとうのことを書いても、すべて嘘になってしまうのであった。
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詩人は自分が一冊の本であることに気がついた。自分をペラペラとめくってみた。そこには、よく自分が覚えていなかったことや、自分が思いつきもしなかったことが出てきた。まだはじめのところで、自分が死んでることになっていた。残りのページは、生きているときのこ
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