榊/リリー
 
 
 熱をはなつ太陽の勇みつつ
 南向きの居室で
 網戸から吹きこむ風が
 日焼けした畳をなぞっていく

 座敷机の榊立てに生けられた榊は
 光のかすかな痺れに
 微睡みながら
 忍び寄ってくる夕影を待っている

 そんな榊が近ごろ早くに枯れる
 わたしの気付かない邪気が
 夜深(よふけ)に揺らいでいて
 榊はそれを見ているから
 枯れてしまうのか?

 わたし自身に邪悪な存在が潜んでいて
 とおくの向う岸で
 こちらを向いて立っている榊の
 豊かな緑を汚してしまっているのか
 それとも、
 何かの兆しなのだろうか?
 少し気になり始めて

 枯れた榊を塩で清めて白紙に包み
 感謝を込めて処分する
 そしてなんとなし
 キッチン戸棚と冷蔵庫の
 調味料など賞味期限切れの物を整理して
 下駄箱の履かないスニーカーを
 廃棄してみた

 今夜、新しい榊を一把座卓に飾る
 青々とした榊があるだけで
 新鮮な空気を感じられるのだ
 
 
 
 
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