祈る蝸牛。/田中宏輔
、わたしの爪のない指を
そろり、そろりと、のばしてみた。
、わたしの濡れた指が、その蝸牛の陰部に触れると
その蝸牛もまた、指をのばして、わたしの陰部に触れてきた。
わたしたちは、をとこでもあり、をんなでもあるのだと
──わたしたちは、海からきたの、でも、もう海には帰れない……
わたしたちは、をとこでもなく、をんなでもないのだと
──魂には、もう帰るべきところがないのかもしれない……
この快楽の交尾(さか)り、激しく揺れる病葉(わくらば)、
手を入れて(ふかく、ふかく、さしいれて)婪(むさぼ)りあふわたしたち。
わたしたちは婪(むさぼ)りあはずには生きてはゆけないもの。
──ああ、雨が止んでしまふ。
濡れた指、繰り返さるる愛撫、愛撫、恍惚の瞬間
、瞬間、その瞬間ごとに、
わたしは祈つた、
──死がすみやかに訪れんことを。
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